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人体病理学


ヒト癌全ゲノム解析論文

 

新型コロナウイルス感染症が世界中を巻き込んでいる状況ですが、1月にネットのニュースにヒト癌の全ゲノム解析の総説的な論文(The ICGC/TCGA Pan-Cancer Analysis of Whole Genomes Consortium. Pan-cancer analysis of whole genomes. Nature 578; 82-93, 2020.)が出たとあったので、読んでみることにした。

 次世代シーケンサー解析の初めてのまとめ的な論文であったが、ドライバー変異遺伝子の検出では、まだ、アルゴリズムや解析ソフトの未熟さから、既に解明されているものは、その候補リストに加えて検討したそうである。平均して、一つの癌種で、4~5のドライバー変異遺伝子等が見られ、従来の多段階発癌仮説で云う独立したヒットに相当するのかなと興味が持たれた。また、変異の生じ方にも、巨視的なパターンがあるそうで、従来のウイルス感染等でのゲノムへのウイルス遺伝子の侵入へのAPOBEC3B等での修復が結果的には遺伝子変異が生じることなども、その巨視的な変異のパターンの一つに挙げられていた。また、分子時計的な解析結果の評価方法では、ある癌化前に生じた変異は多くのコピーが生じて検出頻度も高いが、その後の変化(プロモーションやプログレションでの変異はコピー数も少なくて検出頻度も低くなり、深い検出解析が必要となると言っていた。また、変異遺伝子が対象だからかもしれないが、癌の複製不死化ではTERT関連の変異が挙げられていたが、低悪性度や慢性型の癌種では恐らく細胞死からの逃避による不死化は遺伝子変異の側面からは解決できない問題なのかと思われた。

 

 血液病理分野での成人T細胞白血病の全ゲノム解析結果も論文になっているようで、その翻訳レビューもネットで読めた(Kataoka K et al. Integrated molecular analysis of adult T-cell leukemia/lymphoma. Nature Genetics 47, 1304-1315, 2015. 成人T細胞白血病における網羅的な遺伝子解析、片岡圭亮、小川誠司、ライフサイエンス新着論文レビュー)。残念ながら、上記の論文の分子時計的な解析は行われていなかった。

 

短絡的かもしれないが、正常T細胞、生体内のHTLV-1感染T細胞、慢性白血病型、急性白血病型に分けての全ゲノム解析でのそれぞれの対比的解析で、癌化前のドライバー変異遺伝子等の蓄積の状況、癌化での重要なドライバー(変異)遺伝子、そして、プログレションで生じたドライバー変異遺伝子と整理することで、HTLV-1の発癌の特徴の解明とそれぞれの病期での治療における標的ドライバー遺伝子が明らかなになってくるのかなと思われた。

 


 

The ICGC/TCGA Pan-Cancer Analysis of Whole Genomes Consortium. Pan-cancer analysis of whole genomes. Nature 578; 82-93, 2020. https://doi.org/10.1038/s41586-020-1969-6

(翻訳:蓮井和久、稚拙な翻訳です。ご指導やご示唆を頂けれ、私のメールにお送りください!)

 

 

要約

 

癌は遺伝子の変化で誘発され、そして、次世代シーケンシングDNA解析の導入により、この癌化を系統的に明らかに出来る[1-3]。我々は、Pan-Cancer Analysis of Whole Genomes PCAWG)Consortium of the International Cancer Genome Consortium (ICGC) The Cancer Genome Atlas (TCGA)38種の癌の2,658全癌ゲノムとその正常ゲノムとの比較の統合的解析を行った。国際的な資料の共有コンピューター処理によるPCAWG資料の解析結果を報告する。平均して、癌ゲノムは、コーディング領域とノンコーディング領域を合わせて、4から5個のドライバー変異を有していたが、5%前後の例では、ドライバー変異は同定されずに、癌ドライバー遺伝子の検出解析はまだ完全なものではないことが示唆された。クロモスリプシス(Chromothripsis)(一回の破局的出来事で、多くの集合した構造的な変異が生じること)は、腫瘍成長のしばしば早期に生じていた。例えば、肢端型黒色腫では、体細胞遺伝子の点突然変異に先行してクロモスリプシスが生じて、同時に幾つかの癌関連ゲノムに影響していた。異常なテロメアを保持している癌は、しばしば低再生レベルの組織に発生し、テロメアの機能維持が出来なくなる損耗を防ぐ幾つか機序を有していた。通常と稀な生殖細胞突然変異は、点突然変異、構造異常、体細胞レトロトランスポジションを含む体細胞突然変異のパターンに影響していた。the PCAWG Consortiumからの論文をまとめてみると、TERT(テロメア逆転写酵素遺伝子)のプロモーターの変異[]よりも更に癌を生じるノンコーディング変異が見出され、これらは、塩基置換、ゲノムへの小さな挿入、失欠、構造変異を生じる新たに見出された遺伝子変異の生じる機序を明らかにし[5,6]、腫瘍発生の時期とその機序も説明し[7]、スプライス、発現レベル、癒合ゲノム、プロモーター活性に影響する体細胞突然変異の多様な発現の結果を説明し[8,9]、癌遺伝子の更に特殊な性格も説明していた[8,10-18]

 

 

 

 

癌は、毎年800万人を殺し、次の20年で、50%以上の発生の増加が予測されている第2番目の死因である[19,20]。“癌”とは、自律的な体細胞クローンの拡大と分散を特徴とする一連の疾患を定義した包括的な名前である。この癌の行動は、細胞増殖の正常な調節機序を無効化し、癌細胞の増殖に都合の良い様に限局した微小環境を修飾し、組織の隔壁に浸潤し、他の器官に広がり、免疫学的監視機構から逃避する多数の細胞機能を活性化しているに違いない[21]。これらは、一つの細胞の機能では発動させることでは出来ない。むしろ、個々の癌がそれぞれで特徴的な組み合わせを引き出す大きなヘテロな病的な細胞異常状態がある。腫瘍に共通した巨視的な特徴は、細胞異常の巨大な多様性である。

 

この癌のヘテロな性格は、ダーウィン進化の確率論から説明される。ダーウィン進化には3つの前提がある。一つの集団に生じる特徴であり、その変異は親から子に遺伝する必要があり、その集団で淘汰が働いている必要がある。体細胞に於いては、生殖細胞やエピジェネチックな変化よる追加的な寄与にも関わらず、生涯確率論的に獲得される遺伝子変異から遺伝する変異が生じる。この一組の遺伝子変異は、細胞の形質を変化させ、これらの変異の少数は、体細胞を制約している厳密な生理学的制御から逃避しようとこれらの細胞株に有利に働く。これらの細胞に選択的に有利とする変異は、選択的に中立的で介在する変異に対して、ドライバー変異と呼ばれている。

 

最初の次世代DNAシーケンシングを用いた研究は、癌に於ける全ての体細胞点突然変異(somatic point mutation)、コピー数変化(copy-number change)と構造変化(structural variant : SV)を同定できた[1-3]2008年に、この技術革新のもたらすチャンスを認識して、the global cancer genomics communityは、通常の癌種を生じる体細胞遺伝子変異を系統的に明らかにすることを目的に、Consortium of the International Cancer Genome Consortium (ICGC)を設立した[22]

 

 

 

The pan-cancer analysis of whole genomes (PCAWG: 全癌種の全ゲノム解析))

 

ICGCTCGAの個々のワーキンググループからの全ゲノムDNAシーケンシング研究の拡大により、腫瘍種間のゲノムの特徴のメタ解析を実施できる可能性が出てきた。これを実施する為に、PCAWGが設立された。技術ワーキンググループは、ここの腫瘍種の研究した異なるワーキンググループの生の(元)DNAシーセンシングデータを集めて、ヒトゲノムのDNA配列に揃えて、下流(ダウンスツリーム)解析に要する高品位の体細胞変異群を供給したインフォマチックス解析(情報学解析)を準備した。TCGA Pan-Cancer Atlas[23–25]からタンパク質をコードするエクソン領域(エクソーム)DNAデータの最近のメタ解析を得て、科学的ワーキンググループは、最良の全ゲノムDNAシーケンシングデータの解析に集中した。

 

 我々は、2834例のゲノムデータを収集し(Extended Data Table 1)、その中の176例のデータは、その質の検討から除外された。更に、75(grey-listed donors)は幾つかの解析に影響する軽微な問題を有し、2,583(white-listed donors)の適切な品質のDNA配列データを有していた。この2,658 white- and grey-listed donorsから、2,605例の原発腫瘍、173例の転移ないし再発腫瘍の全ゲノムDNAシーケンスデータを用いることが出来た。平均で読めた配列は、正常サンプルの38xで、腫瘍に関しては、38x60x2峰性の読めた配列であった。RNAのシーケンスデータは、1,222例のデータが使用できた。最終的な症例は、男性が1,469例、女性が1,189例で、平均年齢は56歳で、38腫瘍種のものとなった。

 

  体細胞変異を同定するのに、alignment (整列)variant calling (変異検出)、質の制御のために、6,835サンプルを解析した。somatic singlenucleotide variations (SNVs: 体細胞の単一ヌクレオチド変異 SNP), small insertions and deletions (indels: 小挿入/小失欠), copy-number alterations (CNAs:コピー数変異) and SVs(構造変異)を知るために、3つの確立された情報解析法を用いた。体細胞でのレトロトランスポジション(遺伝子の逆転写転移)、ミトコンドリアDNA変異、テロメア長も、特注の解析法(アルゴリズム)で解析した。RNA塩基配列データは、決まった転写産物変異を検索した。生殖細胞変異は、single-nucleotide polymorphisms (SNPs), indels, SVs and mobile-element (可動遺伝因子)insertionsを含んだ3つの異なる解析方法で同定した。

 

 5,800全ゲノムに対する一様な再配列や変異解析は、かなりのコンピューターでの試練を生じ、異なる管轄からのデータの使用で倫理的問題を生じた。我々は、3大陸の13データセンター間での再配列と変異解析では、コンピューターのクラウド利用[26,27]を行った。コアの解析は、Docker container[28]に、再現出来て、単独の記録として、記録し、記録のダウンロード利用が出来た。生(元)のデータと派生したデータは、データの可視化と探索を可能にするように、データレポシトリー(記録)が作成された。

 

 

 

Benchmarking of genetic variant calls (遺伝子変異解析のベンチマーク検査)

 

変異解析のベンチマーク(比較検査)の為に、3つのコア解析、10の追加解析を、代表的な63組の腫瘍と正常のゲノムで比較した。50例については、次世代シーケンシング(=deep sequencing : massive parallel sequencing)で腫瘍と正常のDNAセットを用いて検証を行った[29]

 

3つの体細胞変異解析のコア解析法は、13解析法のどれも検出される真の体細胞SNVを検出する感度は、それぞれで80-90%であった。この3つのコア解析法で検出された95%以上のSNVは厳密に体細胞変異であった(Fig.1a)。短いDNAシークエンシングで同定するより試練的な挑戦クラスの変異であるindelsに関しては、この3つのコア解析法の個々の検出感度は、当初70-95%であったが40-50%であった(Fig.1b)。個々のSV解析アルゴリズムは、63サンプル資料での検索で80-95%の制度と評価された。

 

 次に、3つの解析法の結果を最終の下流域科学的解析に用いる一つの変異結果とする方法を決定した(Methods and Supplementary Note 2)。そして、SNVsの解析では、感度と制度が、それぞれ、95% (90% confidence interval, 88–98%)95% (90% confidence interval, 71–99%)となった (Extended Data Fig. 2)。体細胞でのisdelshの解析の感度と制度は、それぞれ、60% (34–72%) 91% (73–96%)であった(Extended Data Fig. 2)。体細胞SVに関しては、どの解析法で検出されるものの検出感度90%であり、その精度は97.5%であった。異なる解析系の合わせることで、特に、低い変異率アレル成分の変異の検出で、恐らく腫瘍にサブクローンに由来する変異であるが、顕著に検出の正確性の改善が認められた(Fig. 1c, d)。生殖細胞変異解析は、同期させたハプロタイプ参照パネルを利用し、精度は99%で、感度は92-98%であった(Supplementary Note 2)

 

 

 

Analysis of PCAWG data

 

2,500以上のドナーの一様に作成され高品位の変異解析結果は、癌の生物学を明らかにする一連の科学的ワーキンググループに基礎資料を提供した。かれらの課題における解析と発見は、包括的な以下のコンパニオン論文に報告されている[4-18]

 

 

 

Pan-cancer burden of somatic mutations (体細胞変異の全癌種への負荷)

 

2,583 人の白人(white-listedPCAWG例の解析で、43,778,859 somatic SNVs, 410,123 somatic multinucleotide variants, 2,418,247 somatic indels, 288,416 somatic SVs, 19,166 somatic retrotransposition events8,185 de novo mitochondrial DNA mutationsが検出された (Supplementary Table 1)。患者間と腫瘍種間で、体細胞変異の発生には相当な相違があり、異なる種の体細胞変異と変異負荷に相関が見られた (Extended Data Fig. 3)。個々の患者レベルでは、腫瘍の純度とプロイデイを考慮すると、この相関が認められた(Supplementary Fig. 3)。どうして、そのような相関が腫瘍全体では認めらない理由は明らかでない。おそらく年齢の何らかの関与があるようで、診断時の年齢と多くの体細胞変異種間に関連が認められた (around 190 SNVs per year, P = 0.02; about 22 indels per year, P = 5 × 10−5; 1.5 SVs per year, P < 2 × 10−16; linear regression with likelihood ratio tests; Supplementary Fig. 4) 体細胞変異種間の相関に関与する因子としては、幾らかのDNA修復欠陥は多くの体細胞変異種を生じるし[30]、一種の変異原はある範囲のDNA病変を生じる[31]

 

 

 

Panorama of driver mutations in cancer (癌に於けるドライバー変異の概観)

 

 我々は、現在の知識を基礎に、ドライバー現象に確実に関与しているPCAWG腫瘍における体細胞変異の組み合わせを抽出した。繰り返し変異している癌関連遺伝子のすべての変異がドライバー変異ではないこと[32]から、個々の腫瘍に於いて特別なドライバー変異を同定しようと試みた。PCAWGデータの顕著に変異した遺伝子成分を見出す為に、我々は恐らくドライバーであるものを同定する‘rank-and-cut’アプローチ法を開発した(Supplementary Methods 8.1)。特定の遺伝子成分で観察された変異が繰り返し生じていることを基礎にランク付けて、その結果生じる機能とドライバーの期待される様式を評価した。そして、我々は、背景の変異率の期待値以上に遺伝子成分での体細胞変異の過剰な負荷を見積り、この水準でランク付けした変異を再評価した。最も高くランク付けられたそれぞれの成分の変異を“恐らくドライバー“とし、この閾値以下の変異は、恐らく偶然生じたものであり、”恐らくパッセンジャー“とされた。変異をランク付けるのに用いた特徴や変異を測るのに用いた方法の改善は、この‘rank-and-cut’アプローチ法の更なる改良を続けられた。

 

 幾つかの正真正銘の癌遺伝子成分は、統計的な力量の低さからPCAWGデータでは再発見されていない事実を説明する必要もあります。従って、我々は、以前に癌関連ゲノムと知られているものを“発見された組“に追加して、そして、所謂”変異ドライバー成分一覧“を作製した (Supplementary Methods 8.2)。そして、既知の知識でこれらの遺伝子成分に影響するものをドライバー点突然変異と定義する厳密なルールを用いて[33]、我々は“恐らくドライバー点突然変異”を介在点突然変異から区別した。総ての変異を網羅する為に、体細胞CNAsSVsのどれがそれぞれの腫瘍でドライバーとして機能しているかを同定する類似した規則を用いて、我々は、知られたドライバーSVsの一覧を作成することが出来た。 恐らく病原となる生殖細胞変異を知るために、総ての分枝する生殖細胞点突然変異と生殖細胞関連遺伝子に高浸透性を示すSVsを同定した。

 

この分析は、確実に現在の知識から示せるPCAWG2500以上の腫瘍での活動性の腫瘍形成を示す変異の組み合わせを同定した。各腫瘍で平均4.6個のドライバーが同定され、91%の腫瘍は少なくとも一個の同定されるドライバー変異を有し、癌種別でかなりの違いがあることが示された。蛋白をコードする点突然変異では、同様の方法で既知の腫瘍の癌関連遺伝子のTCGA核酸塩基レベルで推定される数と同様に、各腫瘍で平均2.6個のドライバーがあった[32]

 

蛋白をコードしないドライバー点突然変異の頻度に関しては、我々は、PCAWGデータで発見されたものと一緒に、既知の蛋白をコードしないドライバー[34-37]であるプロモーターとエンハンサーを一緒にした。これは、関連論文[4]で報告している。この方法で、PVAWG腫瘍では、ドライバー点突然変異は、13% ( 5,913785)が蛋白をコードしないものであった。それにもかかわらず、PCAWG腫瘍の25%は、少なくとも一つの恐らく蛋白をコードしないドライバー点突然変異であり、その3分の1785237)はテロメア逆転写酵素(Teromerase Reverse transcriptase: TERT)のプロモーターに影響していた(PCAWG腫瘍の9%)。全体としては、蛋白をコードしない点突然変異は、蛋白をコードするドライバー変異よりも頻度の低いものであった。TERTプロモーター以外では、個々のエンハンサーやプロモーターはドライバー変異の稀な標的でしかなかった。[4]

 

腫瘍別では、SVsと点突然変異は、それぞれの腫瘍形成に、異なった寄与を示した。以前に報告されている[38]様に、乳腺癌では6.4 ± 3.7 SVs (平均± 標準偏差) に対して 2.2 ± 1.3 点突然変異(P < 1 × 10−16, Mann–Whitney U-test)で、卵巣腺癌では5.8 ± 2.6 SVs に対して1.9 ± 1.0 点突然変異(P < 1 × 10−16)でドライバーSVsがより多かったが、結腸直腸腺癌では2.4 ± 1.4 SVs に対して7.4 ± 7.0 点突然変異(P = 4 × 10−10)で、成熟B細胞リンパ腫では2.2 ± 1.3 SVsに対して 6 ± 3.8 点突然変異(P < 1 × 10−16)でドライバー点突然変異がより多かった。腫瘍別では、変異の種類は生じた遺伝子成分に影響した相違があった(Fig. 2b)

 

我々は、腫瘍抑制遺伝子に影響する多くのドライバー変異は、2ヒットの不活化の出来事であることを確認した(Fig. 2c)。例えば、TP53にドライバー変異を有する群の954例の腫瘍の736 (77%)は両鎖が変異し、その96% (736707)では一つの鎖に体細胞遺伝子点突然変異を、もう一方の鎖では体細胞遺伝子の失欠していた。全体では17%の患者が、癌素因遺伝子[39]DNA損傷反応遺伝子[40]と体細胞ドライバー遺伝子に、稀な生殖細胞の蛋白分枝異常(PTVs)を有していた。生殖細胞のPTVの頭の部分での体細胞変異による二本鎖の不活性化が、全体では4.5%の患者で認められ、その81%BRCA1, BRCA2ATMと言った既知の癌素因遺伝子に影響していた。

 

 

 

PCAWG tumours with no apparent drivers (明らかなドライバーのないPCAWG腫瘍)

 

 例えPCAWG290%以上でドライバーが同定されたのだが、181例の腫瘍ではドライバーを見つけられなかった (Extended Data Fig. 4a)。このドライバーを見出せなかったことのこの検索癌群での癌系統的な評価はまだ行われていないが、技術的ないし生物学的な理由を考えることが可能だ。

 

 その技術的な理由には、サンプルの質の悪さ、不適切なDNAシーケンシング、用いたバイオインフォマチックな方法(アルゴリズム)の失敗が挙げられる。我々は、資料の質を評価して、181例中4例では5%以上の腫瘍DNAの汚染をそれぞれの正常資料に見出した(Fig. 3a)。この汚染を補正するように修正した方法(アルゴリズム)[41]を用いて、それぞれの癌種に関連した遺伝子に、見逃していた変異を同定した。同様に、腫瘍資料内の間質の混入により腫瘍細胞成分が低くても、ドライバー変異の検出は低下することになる。多くの既知のドライバーがない腫瘍では、平均で変異細胞株の100%近い検出であったが、しかし、少数例は70-90%程度の変異細胞株の検出であった (Fig. 3b and Extended Data Fig. 4b)。例え、適切にシーケンスされたゲノムでも、特異なドライバー箇所での判読深度を欠くと、変異の検出が出来なくなる。例えば、高いGC含有領域では判読域を偏らせることから、PCAWG腫瘍のたった50%程度でしか2つのTERTプロモーターのホットスット(高変異領域)で90%以上の変異を検出するに十分な判読が出来なかった(Fig. 3c)。事実、既知のドライバーのない181例の中の6肝細胞癌と2胆管細胞癌は、deep targeted sequencing (判読深度を深めた検索標的を絞ったシーケンシング)で、TERT変異が認められた[42]

 

 最終的に、ドライバー変異を見逃した技術的な理由は、バイオインフォマチックな方法(アルゴリズム)の失敗となった。この問題は、JAK2V617Fドライバー変異が当然見出されるはずのPCAWG35例の骨髄増殖性腫瘍に生じた。我々の体細胞変異の解析方法(アルゴリズム)は、繰り返したシーケンシングの人工産物(アーチファククト)を除く為に、典型的には血液サンプルから得られる“正常のパネル“に依存している。健康者の2-5%は不思議な造血細胞株を含んでいる[43]ことから、これらの不思議な造血細胞株の繰り返されたドライバー変異が”正常のパネル“に混入することがある。

 

 生物学的な理由に関しては、それらの腫瘍細胞は、その腫瘍種で未だ記載されていない癌関連遺伝子の変異により生じているかもしれない。既知のドライバーを有しない腫瘍でドライバーを検索する方法(アルゴリズム)を用いて、個々の遺伝子は決して点突然変異が有意なものになることはない。しかし、 我々は、既知のドライバーを欠いている髄芽腫のSETD2に及ぶ繰り返したCNA(Copy-number alteration)を同定し(Fig. 3d)、これは、もしそのような腫瘍では未発見の遺伝子が多いのであれば、ドライバーを検出できない例を検索する厳密な仮説が更にドライバーを発見するであろう。髄芽腫のSETD2の不活性化は、有意に遺伝子の発現を抑制する(P = 0.002) (Extended Data Fig. 4c)。特記すべきは、SETD2変異は、髄芽腫Group-4腫瘍に特異的に生じている(P < 1 × 10−4)Group-4 髄芽腫はその他のクロマチン修飾遺伝子の高頻度の変異があることが知られ[44]、そして、我々の研究結果は、SETD2の機能の喪失はこのサブグループのクロマチン調節に影響する付加的なドライバーであることを示唆している。

 

 2つの腫瘍種では、同定できるドライバー変異のない患者が驚くほどに多かった。色素嫌性腎細胞癌(chromophobe renal cell carcinoma)では44%( 43例中19 )であり、膵臓神経内分泌癌(pancreatic neuroendocrine cancers )では22%81例中18例)であった(Extended Data Fig. 4a)。両腫瘍種のドライバーのない例の顕著な特徴は、以前に報告[45,46]されている染色体の異常な倍体型(chromosomal aneuploidy-patterns)が顕著なものであった (Fig. 3e)。これらの患者でのその他の同定されたドライバー変異が欠けることは、ある種の全染色体の獲得ないし欠失の組み合わせが限局的なCNAsの点突然変異や癒合遺伝子の様なより絞ったドライバー現象が欠けた状態では発癌に十分であるのかも知れない可能性を提起する。

 

 例え、技術的な問題や顕著なドライバーを考慮しても、5.3%PCAWG腫瘍はまだ確たるドライバー現象を有していない。患者数に関して結論を引き出すことに興味を持っている研究の場合は、時々の症例に影響する技術的問題の結果はサンプルのサイズによって軽減されるかも知れない。特定の患者でのドライバー変異に興味を持つ臨床の場合は、これらのことは実質的により重要となる。癌遺伝子の臨床的なシーケンシングを提供する研究室には、サンプルの取得、遺伝子のシーケンシング、マッピング、変異解析、ドライバーの注釈を含む全課程の注意深いそして厳密な鑑定を要求されるべきである。

 

 

 

Patterns of clustered mutations and SVs (集簇変異とSVsのパターン)

 

 幾つかの体細胞変異の過程は、一つの破局的な現象で、多発変異を生じ、典型的には遺伝子空間に集簇し、遺伝子の実質的な再構成に帰着する。そのような3つの過程が以前に既に記述されている。(1) chromoplexy (連環染色体断裂融合):典型的には異なる染色体で同時期に生じた二本鎖DNA断裂の修復で、混じった再構成を生じる[47, 48] (Extended Data Fig. 5a)。 (2) kataegis(カタエギス):限局的な高変異過程で、一本鎖に生じる[49-51]局所的に集簇した核酸塩基の置換です (Extended Data Fig. 5b)。 (3) chromothripsis (クロモスリプシス:染色体破砕):数十から数百のDNA 切断が同時に集簇して一つないし数個の染色体に生じ、生じた断片がほぼランダムに繋ぎ合わせられる[52-55](Extended Data Fig. 5c)。我々は、これ等の3つの過程で、PCAWG遺伝子を特徴づけた。

 

 chromoplexy (連環染色体断裂融合)の出来事と相互転座は467 (17.8%)例の資料で同定された(Fig. 4a, c)。連環染色体断裂融合は、以前に記述されている前立腺癌とリンパ球系悪性腫瘍、そして、期待していなかったのだが、甲状腺癌で顕著であった[47,48] この3つの腫瘍では、異なった遺伝子座は、特定の癒合遺伝子あるいはエンハンサーのハイジャック現象を求めたポジティブ選択によって、再三の環染色体断裂融合によって再構成されている。48例の甲状腺癌での13癒合遺伝子ないしエンハンサーのハイジャック現象の、少なくとも4つ(31%)は環染色体断裂融合で生じており、更に4つ(31%)は環染色体断裂融合の痕跡を含む環染色体断裂融合によるものである (Extended Data Fig. 5a)。これらの環染色体断裂融合は、RET(2)NTRK31例)[56]、高発現遺伝子の調整成分を伴った癌遺伝子IGF2BP3の近傍(5例)を含む癒合遺伝子を生じている。

 

 カタエギス(限局的な高変異過程)は、全癌の60.5%に、特に、肺扁平上皮癌、膀胱癌、肢端黒色腫と肉腫で高頻度に認められる (Fig. 4a, b)。典型的には、カタエギス(限局的な高変異過程)は、例え、間違いを生じ易い修復ポリメラーゼ(error-prone polymerases)に起因するT(トレオニン)T(トレオニン)C(システイン)T(トレオニン)が連続する配列でのT(トレオニン)N(アスパラギン)への変換が最近記載されている[57]が、恐らくAPOBECの活性により生じる [49-51]と考えられるT(トレオニン)の次にC(システイン)が来る配列でのC(システイン)N(アスパラギン)への変異から成る。APOBECの仕業が81.7%のカタエギス(限局的な高変異過程)を説明し、APOBEC3Bの発現レベル、体細胞SV負荷と診断時の年齢に相関している(Supplementary Fig. 5) 更に、5.7%のカタエギス(限局的な高変異過程)はT(トレオニン)N(アスパラギン)へ変換する間違いを生じ易い修復ポリメラーゼ(error-prone polymerases)に起因し、2.3%のカタエギス(限局的な高変異過程)は、特に肉腫で見られるが、代価的なG(グリシン)C(システイン)や、C(システイン)C(システイン)の連続配列でcytidine deamination(シチジン基から脱アミノ基を取り除くこと):activation-induced (Cytidine) deaminase (AID)による)が見られる。

 

 カタエギス(限局的な高変異過程)は、以前に記述されている[50,51]様に、体細胞SV 中止点を高頻度に伴う (Fig. 4a and Supplementary Fig. 6a)。直列の複製やその他の単純なSVは、ほんの少ししか関連しないが、欠失と複雑な再構成はカタエギス(限局的な高変異過程)に最も強く関連している(Supplementary Fig. 6b)C(システイン)T(トレオニン)T(トレオニン)の連続した配列で主にT(トレオニン)N(アスパラギン)に置換を生じるカタエギス(限局的な高変異過程)は、特に1025kb長の失欠の近傍に多く認められる(Supplementary Fig. 6c)

 

 極端なカタエギス(限局的な高変異過程)負荷(30病巣以上)を伴うサンプルは4つの限局的な高頻度変異に分類された (Extended Data Fig. 6)(1) 標的のない体細胞高頻度変異とC(システイン)T(トレオニン)T(トレオニン)の連続した配列のT(トレオニン)N(アスパラギン)への置換病巣は、B細胞非ホジキンリンパ腫と食道腺癌のそれぞれに認められた。(2) 複雑な再構成を伴ったAPOBEC関連カタエギス(限局的な高変異過程)は、肉腫と黒色腫に顕著に認められた。(3)不連続に複製される側のDNA鎖(lagging strand)と早期に複製される領域の再構成に依存していないAPOBEC関連カタエギス(限局的な高変異過程)は、主に膀胱や頭頚部癌に認められた。(4)上記の(2)(3)の混合したもので、カタエギス(限局的な高変異過程)はただ時々ドライバー変異を生じていた(Supplementary Table 5)

 

我々は、587サンプル(22.3%)で、多くは、肉腫、膠芽腫、肺扁平上皮癌、黒色腫、乳腺癌で、chromothripsis (クロモスリプシス:染色体破砕)を認めた[18]クロモスリプシス(染色体破砕)は、以前に髄芽腫で示されている[58]ように、多くの癌種で全遺伝子の複製に伴って増加する(Extended Data Fig. 7a)。最も繰り返し関連したドライバーは、TP53[52] であった(全癌で、オッズ比=3.22, p=8.3 × 10−35; q < 0.05 乳腺小葉癌(オッズ比-13)、大腸癌(オッズ比=25)、前立腺癌(オッズ比=2.6)、肝細胞癌(オッズ比=3.9)、Fisher–Boschloo tests)2つの癌種(骨肉腫とB細胞リンパ腫)では、女性は男性より高頻度のクロモスリプシス(染色体破砕)を示した(Extended Data Fig. 7b)。前立腺癌では、より高頻度のクロモスリプシス(染色体破砕)を若年発症例よりも晩年発症例で認めた[59](Extended Data Fig. 7c)

 

クロモスリプシス(染色体破砕)領域は、PCAWGの同定された全ドライバーの3.6%と、copy-number ドライバーの7%前後と一致した(Fig. 4d)。この比率は、これらの出来事に選択が働かないとすれば、かなり高いものである(Extended Data Fig. 7d)。一致したドライバーの出来事の結果の多くは、遺伝子の増幅(58%)、ホモ接合の欠失(34%)、そして、遺伝子やプロモーター領域内でのSVs8%)であった。 クロモスリプシス(染色体破砕)を有しないサンプルとドライバーがクロモスリプシス(染色体破砕)の生じた部分にある場合では、増幅された、あるいは、欠失したドライバーの発現のそれぞれ2倍の亢進あるいは2倍の抑制がしばしば生じていた (Extended Data Fig. 7e)

 

クロモスリプシス(染色体破砕)は、5つの特徴を基礎に、ドライバーの様式と腫瘍種での頻度に影響していた(Fig. 4a)。例えば,脂肪肉腫では、 クロモスリプシス(染色体破砕)は多数の染色体で生じて、一様なMDM2遺伝子の増幅とTERT遺伝子の共増幅が19例中4例で見られた(Fig. 4d)。対照的であるが、膠芽腫では、クロモスリプシス(染色体破砕)は単一の染色体のテロメアより離れたより小さな領域に影響する傾向があり、EGFRと2MDM2の限局的増幅とCDKN2の損失を示した。肢端黒色腫では、CCND1の増幅が見られ、肺扁平上皮癌ではSOX2の増幅を示した。この2例の場合は、同じ癌種内の他のドライバーや同じドライバーを有する他の癌種と比較して、そのドライバーはクロモスリプシス(染色体破砕)により高頻度に変化させられていた (Fig. 4d and Extended Data Fig. 7f)。最後に、色素嫌性腎細胞癌では、クロモスリプシス(染色体破砕)はほぼ何時も5番染色体に影響し(Supplementary Fig. 7)TERTの極く近傍で中止点を有し、再構成を示さない例と比較して平均でTERT 発現を80倍に増やした(P = 0.0004; Mann– Whitney U-test)

 

 

 

Timing clustered mutations in evolution (がん発生における集簇した変異の生じる時期)

 

 解答されていない質問は、「集簇した変異過程はがん発生の早期ないし晩期に生じたものなのか?」である。これに関して、我々は、それぞれの腫瘍の自然史における幅広き時期を定義できる分子時計を用いた[49,61]。一つの移行点は、クローナルとサブクローナルな変異の間にある。即ち、直近の共通した祖先細胞の出現の前にクローナル変異は生じ、サブクローナル変異はその後の生じている訳です。遺伝子コピー数の獲得領域で、分子時間は、変異が遺伝子コピー数の獲得の前であればそれば複製されており、そのあとに生じていればそれは一つの染色体の一コピーにのみ認めることになることで、更に、区分することが出来る[7]

 

 クロモスリプシス(染色体破砕)は、特に、脂肪肉腫、前立腺癌、扁平上皮肺癌では、より大きな相対的なオッズをサブクローンよりもクローンで示し、それは発癌早期に生じていることを示唆している(Fig. 5a)。以前に報告されているが、クロモスリプシス(染色体破砕)はメラノーマで頻繁に見られる[62]。我々は、89個の異なるクロモスリプシス(染色体破砕)を66例(61%)の黒色腫で同定し、89個中の47個のクロモスリプシス(染色体破砕)が、黒色腫で繰り返し変異していることが知られている遺伝子に影響していた[63] (Supplementary Table 6)。細胞周期調節因子であるCCND1を含む11番染色体の或る領域にクロモスリプシス(染色体破砕)が生じているのが21例(86例中の10例の皮膚型、21例中11例の肢端型ないし粘膜型の黒色腫)に見られ、典型的には、21例中19例で遺伝子増幅を組み合わさったクロモスリプシス(染色体破砕)を示した (Extended Data Fig. 8) 同じクロモスリプシス(染色体破砕)内に、他の癌関連遺伝子を共に含まれることがしばしば認められ、そんな癌関連遺伝子にはTERT (5), CDKN2A (3), TP53 (2) MYC (2)が見られた (Fig. 5b)。これらの共増幅では、複数の染色体を含むクロモスリプシス(染色体破砕)は以下の過程を開始し、幾百もの断片がほぼ手あたり次第に縫い合わされた派生染色体が生じる(Fig. 5b)。この派生染色体は、そして、更に再構成し、その派生染色体上の近接した領域と共に標的癌遺伝子の大量の共増幅を生じる。

 

 これらの増幅されたクロモスリプシス(染色体破砕)では、増幅の過程の時期を決めるそれぞれのSNV(=SNP)を有する遺伝子の推定される数のコピーを用いることが出来る。増幅前の染色体に存在するSNVsは、恐らく、それ自身が増幅され、従って、配列の判読の高い成分として報告される(Fig. 5b and Extended Data Fig. 8)。対照的に、増幅後に生じた晩期のSNVsは、多くのコピーの中の唯一染色体コピーに存在し、低い変異鎖成分を有することになる。肢端黒色腫におけるCCND1増幅の領域は、高頻度変異鎖成分には、わずかな、時にはほとんど無い変異しか認めないが、反対に、皮膚型黒色腫では晩期CCND1増幅で、数百から数千の変異が増幅に先行していた(Fig. 5b and Extended Data Fig. 9a, b)。従って、クロモスリプシス(染色体破砕)とその増幅は、肢端黒色腫では、一般に、非常に早期に生じている。比較して、肺扁平上皮癌では、クロモスリプシス(染色体破砕)とそれに続くSOX2の増幅の同様の様式は、多くの増幅されたSNVsを示し、クロモスリプシス(染色体破砕)がこの癌の発生の後期に生じていることを示唆した(Extended Data Fig. 9c).

 

 注目すべきは、変異負荷が十分に高い癌種に於いては、中間量のDNAコピーで期待以上に多量なSNVsを検出でき、それらはクロモスリプシス(染色体破砕)の増幅過程で出現していることが示唆された(Supplementary Fig. 8)

 

 

 

Germline effects on somatic mutations (体細胞変異への生殖細胞効果)

 

 我々は、PCAWGの体細胞変異と8,800万生殖細胞系列の遺伝的変異群を統合して、生殖細胞系列の体細胞変異率と様式への決定的要因を研究した。

 

 最初に、我々は体細胞変異過程の全ゲノムでの統合研究を、個々人での共通生殖細胞変異(5%以上のマイナーアレル頻度(MAF:特定の母集団で2番目に多いアレルが発生する頻度。MAFバリアントの「シングルトン」は膨大な量の選択を駆動し、遺伝率で驚くべき役割を果たす。)と推定されるヨーロッパ人の祖先とで実施した。アジア癌ゲノムプロジェクトの東アジアの人々で、独立した全ゲノムの統合研究は実施されている。

 

 我々は、2つのよくある内的変異過程に注目した。CpG(システインとプロリンの連続して出現する)ヌレオチッドでの5-methylcytosineの突発的な脱アミノ基反応[5](signature 1)APOBEC3ファミリーのcytidine deaminases[64]である(signatures 2 and 13)signature 1解析で、全ゲノムでの有意(P < 5 × 10−8)な変異巣は認められなかった (Extended Data Fig. 10a, b)。しかし、22番染色体の一部(22q13.1)で、APOBEC3B様の突然変異誘発が認められた[65] (Fig. 6a)。染色体22q13.1での最も強いシグナルはrs12628403であり、そのマイナーアレル(参照なし)はAPOBEC3B様突然変異誘発に対して保護されていた(β = −0.43, P = 5.6 × 10−9, MAF = 8.2%, n = 1,201 donors) (Extended Data Fig. 10c)。この変異は、共通して、およそ30-kb長の生殖細胞SVをぶら下げており、それは、APOBEC3BをコードするDNA配列を欠き、APOBEC3B3‘末の非翻訳領域と癒合しAPOBEC3AのコードDNA配列を有していた。 乳癌発症のリスクを上げ、乳癌関連ゲノムでAPOBEC突然変異誘発も上昇させる遺伝子欠失が知られている[66, 67]re12628403は、APOBEC変異誘発の低いレベルの癌種ではAPOBEC3B様変異誘発を減じ(βlow = −0.50, Plow = 1 × 10−8; βhigh = 0.17, Phigh = 0.2)APOBEC変異誘発の高いレベルの癌種ではAPOBEC3A様変異誘発を増加させた (βhigh = 0.44, Phigh = 8 × 10−4; βlow = −0.21, Plow = 0.02)。更に、我々は、全癌種でAPOBEC3B様変異誘発を伴った染色体22q13.1の2番目で新奇な場所(rs2142833)を見出した(β = 0.23, P = 1.3 × 10−8)。我々は、独自に、アジア癌ゲノムプロジェクトの東アジアの個人のデータを用いて、この2つの染色体の場所とAPOBEC3B様変異誘発の相関を確認した(βrs12628403 = 0.57, Prs12628403 = 4.2 × 10−12) (βrs2142833 = 0.58, Prs2142833 = 8 × 10−15)  (Extended Data Fig. 10d)。特記すべきは、rs12628403を検討するコンデイショナル解析で、rs2142833rs12628403は独立してヨーロッパ人に遺伝し(r2<0.1)rs2142833はヨーロッパ人でAPOBEC3B様変異誘発と有意に関連していた (βEUR = 0.17, PEUR = 3 × 10−5) and East Asians (βASN = 0.25, PASN = 2 × 10−3) (Extended Data Fig. 10e, f)。供給者を合わせた発現解析では、更に、rs2142833は全癌種レベルでAPOBEC3Bcis-expression quantitative trait locus (eQTL)であり(β = 0.19, P = 2 × 10−6) (Extended Data Fig. 10g, h)、正常細胞でのcis-eQTL研究でも明らかにされている[68,69]

 

 2番目に、ヨーロッパ人祖先を有する個人での生殖細胞PTVsと体細胞DNA再構成の関係を研究する為に、稀変異相関研究(MAF0.5%)を行った (Extended Data Fig. 11a–c)。生殖細胞BRCA2BRCA1 PTVsは、10kb以下の小さな体細胞SVの失欠(P = 1 × 10−8)と縦方向での複製(P = 6 × 10−13)の増大する負荷と相関し、それぞれに、乳腺と卵巣の癌での最近の研究成果[30,70]の確証を得た。PCAWGデータでは、この生殖細胞PTVsと体細胞DNA再構成の関係は、前立腺や膵臓の腺癌[6]を含む他の癌種でも認められ、典型的では両鎖の非活性化となっている。更に、小さなSVの縦方向の複製を高レベルで有する癌種は、鋳型に沿った挿入の連鎖(cycles of templated insertions”[6]と呼ぶ新奇で明らかなSVsをしばしば示した。これらの複合SV形成は、ゲノムを越えて複製され、隣接する配列と結合し、一つの派生染色体に組み込まれるDNA鋳型を構成する。我々は、全癌種レベルで、生殖細胞BRCA1 PTVsと鋳型化した挿入との有意な相関(P = 4 × 10−15)を見出した(Extended Data Fig. 11d, e)BRCA1欠損PCAWGの前立腺癌の全ゲノム長鎖のシーケンシングは、小さな縦方向の複製と鋳型化した挿入SV形質を確認した(Fig. 6b)。鋳型化した挿入SV形質を有するBRCA1関連腫瘍のほとんど(21例中20例)は、生殖細胞と体細胞の組み合わさった遺伝子のヒット(変異)を示した。以上から、これらのデータは、BRCA1の両鎖の不活化は鋳型化した挿入SV形質のドライバーであることを示唆した。

 

3番目に、稀な変異相関解析は、生殖細胞のMBD4 PTVsを有する患者は、体細胞のシトシン(C)とグアニン(G)が繋がる二本鎖ヌクレオチドでC(シトシン)をT(チミン)に変換する変異率を上昇させていた(P < 2.5 × 10−6) (Fig. 6c and Extended Data Fig. 11f, g)。以前に出版されたTCGAデータ(n=8,134)の全エクソン解析のサンプルの解析も、生殖細胞のMBD4 PTVと体細胞のシトシン(C)とグアニン(G)が繋がる二本鎖ヌクレオチドでC(シトシン)をT(チミン)に変換する変異形成の全癌レベルでの相関(P = 7.1 × 10−4)が再度確認された(Extended Data Fig. 11h)。更に、遺伝子発現の様相は、PCAWG腫瘍内やそれぞれの腫瘍間で、MBD4発現と体細胞のシトシン(C)とグアニン(G)が繋がる二本鎖ヌクレオチドでの変異率の有意ではあるが控えめな相関が示されている(Extended Data Fig. 11i–k)MBD4は、メチル化したシトシン(C)とグアニン(G)が繋がる場所でのT(チミジン)とG(グアニン)の間違った組み合わせからチミジンを除くDNA修復の遺伝子[71]をコードしている。

 

4番目に、我々は、体細胞でのレトロトランスポゾンの逆転写転移を仲介する長い散在性核因子(long interspersed nuclear elements: LINE-1; 以後、L1 と略す)[72-74]を検討した。我々は、114生殖細胞由来LI因子を見出し、それらは体細胞での遺伝子の逆転写転移の活性化を生じる。その中の70は、ヒト参照遺伝子に関して挿入を示し(Fig. 6d and Supplementary Table 7)53強い連鎖不平衡で一つの核酸塩基の異なる多様性(single-nucleotide polymorphismSNPs)を伴っていた(Supplementary Table 7)。ただ、16生殖細胞由来LI因子が、総てのLi仲介PCAWGデータで検出された伝達の67%3,669中の2,440)を説明していた(Extended Data Fig. 12a)。これらの16の活動的な(ホットな)LI因子は、2つ大まかな体細胞の活性を引き起こし、それらは火山活動と同様に、ストロンボリ噴火とプリニー噴火と名づけている。(ストロンボリ式噴火:間欠的な比較的穏やかな爆発を伴う噴火、プリニー式噴火:大量の噴出物を出して、高い噴煙を上げて、その後、噴煙が自戒して火砕流を生じる噴火、その後にカルデラが形成されることもある。) ストロンボリ噴火型のLIは癌でしばしば活性化しているが、ただ小さく地味な体細胞LI活性しか癌資料では仲介していない(Extended Data Fig. 12b)。反対に、プリニー式噴火型Lisはより稀にしか見られないが、攻撃的な体細胞活性を示す。ストロンボリ噴火型の因子は典型的で比較的共通してみられ(MAF > 2%)、時に、ヒトの特定の集団に固定してさえいるのに対して、総てのプリニー式噴火型の因子はPCAWG提供者では稀である(MAF≤ 2%) (Extended Data Fig. 12c; P = 0.001, Mann–Whitney U-test)。この2つの活性とアレル頻度の様式は、年齢や選択的な圧力の相違を反映しているかも知れない、プリニー式噴火型因子は恐らく人の生殖細胞へは最近組み込まれたものと考えられる。PCAWG提供者は平均で5060LI原の因子を有し、57因子の活性化を認める(Extended Data Fig. 12d)が、1以上のプリニー式噴火型因子を有するのはPCAWG供給者の38%(2,8141,075)のみであった。幾つかのLI生殖細胞由来場所は体細胞の腫瘍抑制遺伝子の失欠を生じる(Extended Data Fig. 12e)。多くのLIは個々の大陸の祖先集団に由来している(Extended Data Fig. 12f–j)

 

 

 

Replicative immortality (複製性不死/不滅)

 

 癌の特徴の一つは癌の細胞老化から逃避する能力である[21]。正常体細胞は有限の細胞分裂能力を有し、トロメアの損耗は分裂数を制限する機序の一つである[75]。癌は複製性不死を達成する複数の戦略を備えている。テロメア長の維持するテロメラーゼ遺伝子TERTの過剰発現は特に良く認められる。これは、新たの転写因子結合に導くプロモーターでの点突然変異で達成され[34,37]TERTを遺伝子の他の部分の高活性調節因子につなぎ[46,76]、ウイルス由来エンハンサーのその遺伝子の上流に組み込み[77, 78]、そして、黒色腫で見られる(Fig.5b)染色体の増幅による増加した遺伝子量で達成される。更に、別のテロメア伸長(alternative lengthening of telomeres: ALT)経路もあり、それは、ATRX DAXX遺伝子の機能喪失変異による相同再結合によりテロメアは伸長される[79]

 

 関連論文[13]に報告されている様に、PCAWGデータの16%の腫瘍は、少なくとも、ATRX, DAXXTERTの一つで、体細胞変異を示した。 TERTの変化は270サンプルで検出され、それに対して、128腫瘍はATRX あるいはDAXXに変化があった。その71腫瘍は蛋白分枝であった。 ALTTERT仲介テロメア維持の記述様式の焦点を当てた関連論文[13]では、PCAWG検索群でテロメア配列に12の特徴が明らかにされている。これは、コアの6つの配列の9つの変異を含み、遺伝子内の異所性テロメア様挿入数、遺伝子の切断点数と腫瘍と正常間でのテロメア長の比を含んでいる。ここでは、この12の特徴は、PCAWGデータでの全腫瘍でのテロメアの保全の概観として用いられる。

 

PCAWG検索群でテロメア配列の12の特徴を基礎に、腫瘍サンプルは4つの明らかな亜群を形成し(Fig. 7a and Extended Data Fig. 13a) 、テロメア維持の機序は、確立されているTERTALTの2つの考え方よりも更に多様なものであることを示唆した。 C1群(Cluster C147腫瘍)とC2(Cluster C242腫瘍)は、ALT経路の痕跡、即ち、より長いテロメア、より多くの中止点、より多い異所性のトロメア挿入、多様なテロメア配列モチーフを示した (Supplementary Fig. 9)C1C2は、お互いに、テロメアの6量体の間のTTCGGGTGAGGG変異モチーフの数の顕著な増加で特徴づけられる。甲状腺の腺癌はC3群に多く認められ(33例中26例、C3 samples; P < 10−16)C1群(ALT subtype 1)は肉腫で普通に見られ、膵臓の内分泌腫瘍と低悪性度膠細胞腫は多くはC2群(ALT subtype 2)に属した(Fig. 7b)。特記すべきは、幾らかの甲状腺腺腫と膵臓神経内分泌腫瘍は、C3群を共に構成し、正常群N3を構成する正常資料と一致(Extended Data Fig. 13a)し、共通の形質を共有した。例えば、 GTAGGGの繰り返しがこの群のサンプルには過剰に認められた(Supplementary Fig. 10)

 

 体細胞ドライバー変異は、この4群に不均衡に分布していた(Fig. 7c)C1群の腫瘍は、RB1変異やSVsが多く(P = 3 × 10−5)、同様に、ATRXに影響するSVsもしばしばみられ(P = 6 × 10−14)、しかし、DAXXRB1 ATRXの変異は多くは相互に排他的であった(Extended Data Fig. 13b)。対照的に、C2群の腫瘍はATRXDAXXの体細胞点突然変異が多かった(P = 6 × 10−5)が、RB1ではそうでなかった。C1群におけるRB1変異が多いことは、このRB1変異の多さがただ単に群間での癌種の分布差の結果ではないことが確認され、ただ平滑筋肉腫と骨肉腫を考える時に意味のあるものであった。C3群のサンプルは、しばしばTERT変異を示した(30%; P = 2 × 10−6)

 

CI群に著しくRB1変異が多く認められた。C1群のおよそ3分の一のサンプルは、RB1変異を含み、分枝SNVsSVsと浅い欠失等を当分に示していた(Extended Data Fig. 13c)。以前の研究[80]で、TERT変異がなくてATRXの不活性化でRB1変異は長いテロメアを伴うことが知られ、マウスモデルでの研究[81]はRBファミリー蛋白のノックアウトは伸長したテロメアを生じた。 C1群の形成は、RB1変異はALT経路を活性化する別経路を示せて、DAXXの不活性化で生じるテロメア配列(この症例は例外的にほとんどがC2に区分された)と比較して微妙に異なっていた。

 

異常なテロメア維持機序の比率の高い癌種は、しばしば、内的な複製活動の低い組織に生じる(Fig. 7d)。これを支持するように、組織間での以前に推定された幹細胞分裂率[82]とテロメア維持異常の頻度は反比例することを見出している(P = 0.01, Poisson regression) (Extended Data Fig. 13d)。これは、テロメア維持の制限が重要な腫瘍抑制機序であり、特に、低い定常細胞増殖を示す組織ではそうであり、その中で、癌種への細胞株はこの制限を打ち超えて、複製性不死を達成する。

 

 

 

Conclusions and future perspectives 結論と未来への展望

 

 この論文と関連論文で報告された内容は、癌ゲノムの大小の規模の体細胞変異を形成する多くの変異過程の特性と発生のタイミング、これらの変異に働く選択の様式、体細胞変異の転写への広がった効果、生殖細胞と体細胞変異へのコードと非コード遺伝子の補完的役割、腫瘍内の不均一性の偏在、それぞれの癌種における顕著な進化的起動について洞察した。

 

この洞察の多くは、全ゲノム規模の体細胞変異の全種類を集約的に分析して得ることができたものであり、例えば、特定のエクソンのシーケンシングで得られるものではないであろう。精密医療(プレシジョン・メヂシン)は、患者をゲノム科学で標的化学療法と適合させることを約束している。そのエビデンスに基づく履行への障害は、それぞれの腫瘍型で、それぞれの患者で、それぞれの細胞株で、それぞれの細胞で、これらの論文に記載された恐ろしい癌の多様性です。ゲノムデータから意味のある臨床的な予測因子を確立することは出来るが、それには、幾万もの患者らの包括的な臨床の特徴的情報から成る知識の蓄積が必要であろう[83]。これらのサンプルは、一つの残団や、一つの製薬会社や、一つの健康保険システムには大きすぎることから、国際的な共同研究とデータの共有が必要になるだろう。ICGC, ICGC-ARGO (https:// www.icgc-argo.org/)の次の段階は、医療提供者、医薬品会社、データ科学、臨床治験グループと一緒に、癌ゲノムコミュニティーを形成し、多種の癌の患者の精細な分子生物学的特徴と共に臨床経過と治療データの包括的知識の蓄積(バンク)を作るであろう。TCGAで始まった話は更に進展し、ICGCと他の癌ゲノムプロジェクト、PCAWGは、癌形質を導く原因となる生物学的変化の包括的な説話をもたらして来ている。我々は今この知識を持続可能で有意義な臨床治療に翻訳(導入)して行かなければならない。

 

 

 


 

【病理学教室の現状と今後への期待】

 

 出身の鹿児島大学医学部病理学第2講座(大学院人体がん病理学)(佐藤榮一、米澤傑)は、次の教授選考を中止し、第1講座と合わせて病理学講座となった。病理学の研究分野は免疫病理学、分子病理学とその裾野を広げて来ている中での講座の削減が実施された。免疫病理学も分子病理学もそれぞれ独立した学問領域を確立するに従い、病理学の裾野は狭くなっていたようだ。

 

 この2つの分野に加えて、再生医学、特にiPS細胞利用の再生医療分野への大学院学生やポスドクと云った若手研究者の導入は、それぞれの分野で、限られた常勤研究者籍を求めての激烈な競争環境で論文捏造等の問題を生じさせているが、着実にその領域を排他的に確立して来ているようだ。

 

 因みに、ヒト病理標本での組織化学、特に、抗原回復免疫組織学を信奉していると 、免疫病理学、分子病理学、幹細胞と組織形成の増殖細胞と細胞死という側面からは、人体病理学はそれらの学問の成果を、病理診断や病因解明、病原の特定に生かすことも可能であるし、それらの特有の加療法であってもその効果の評価を行うことが出来るように思え、存在意義は充分にあるようだ。

 

  即ち、免疫病理学も分子病理学も、生体反応を担う分子やシグナル分子を明らかにして、特定の分子やシグナル分子の拮抗薬を得て、分子標的療法を開発するのだが、生体内の病変でのそれぞれの分子やシグナル分子の分布や拮抗剤添加での病変部位での効果の評価は、それぞれの特異抗体の抗原回復回復免疫組織化学でのヒト病変の解析が最終的な評価の一つとなると思われるからである。また、幹細胞からの分化・増殖や細胞死等も、ヒト病理標本での組織化学的検索は可能になっている。

 

  但し、この種の人体病理学の検索はそれぞれの学問分野で行われていて、それぞれの分野の専門家が人体病理学へと手放すかが問題であり、また、一方で、人体組織学・病理学の基礎を有していないそれぞれの分野の専門家がこの種の人体病理学を活用・実施していけるのかが問題であるようだ。

 

 但し、分子生物学が隆盛して来た時に、生化学講座だけでは、新たな領域までも研究を広げることができなく、病理学を始めてしてそれぞれの専門領域の分子生物学までカバーし、分子病理学という病理学の一領域が確立されて来た経緯があり、人体病理学で組織化学を駆使して、形態と分子の機能的理解を深める研究には、既存の分子生物学領域からはクレームは発してられないと思われる。

 

  日本に於ける病理学は実験病理学として始まり、戦後に、外科病理学ないし人体病理学が確立されて来た。人体病理学はどうやらその存在意義をアピール出来るようであるが、実験病理学はそれ単独では他の確立されて来ている学問分野との差別化は難しい状況にあるようだ。しかし、人体病理学で見出された問題の種々の実験による解明となると、病理学の中で、人体病理学とタッグを組んだ実験病理学はその競争的存在意義を持ち得ると思える。

 

 

 

 

【人体病理学の課題と期待】

 

 病理専門医制度が導入されて、専門医の整理の過程で、人体病理学の診断学は、臨床の基本的な科の一つとして病理診断科に発展して来ている。

 

  医療行為として病理診断に関しては、米国の様に、病理診断用の標本の採取も今後要求されてくると、現在の日本の病理専門医は先ずその手技の習得から始めないといけない状況である。

 

今後は、医学分野での研究にはいくら治療法の開発が望まれているとしても、正確な病理診断は医療に必要であり、その病理診断をサポートする諸技術の研究は必須のものである。

 

診断後の病理標本の保存とその活用は、抗原回復法と固定包埋標本からの抽出方法の確立で、研究の側面でも有用なものとなっている。従って、莫大な量の保存病理標本は、ヒトの病気の博物館でもあり、その解析方法が開発される度に、その有用性は高まってくる。所謂、宝の山で、人体病理学は保有している。

 

また、人体病理学の新たな試料として、末梢血組織標本の活用研究は有意義なものと思っている。末梢血の研究試料としての末梢血組織標本は所謂今後の研究の処女地であると思われる。