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医学教育・病理学


医学部を卒業して大学院に進学した時に、専門領域の研究と共に、当時のパラメデイカル教育に参加して、病理学の一通りを勉強するようにと佐藤榮一教授から示唆されて以来、講義の要請があれば、引き受けることにして来た。鹿児島市医師会や川内市医師会付属看護学校、鹿児島医療センター附属看護学校、そして、現在は、原田学園医療専門学校放射線学科の病理学の講義を引き受けている。

  病理学は総論と各論からなり、共に内容はヒトの病気を解説して講義するのだが、前者は病因論から、後者は臓器別に講義を進める。後者は、医学教育カリキュラムの改革の中で臓器別に統合された臨床講義の中で解説・講義されることになり、最近は前者を解説・講義している。また、従来、初学年で、解剖学を修得後の後期に、病理学の講義をしていた時には、生理学、細菌・微生物学、生化学(分子生物学)、免疫学の講義と並行して、講義していると、これも知らない、あれも知らない、解剖学でなにを勉強したのかと云った印象をうけることがあったが、今度のカリキュラム変更で、4学年制の2学年後期に再編されて、病理学のadvanced な内容の講義が、より理解され易い状況になって来た感がある。この病理学の講義時期の変更はかなり意味の或る有効なカリキュラム変更であったようだ。

 

更に、新型コロナウイルス感染症のパンデミックで、その感染状況、病理、免疫学的感染の特徴や機序が明らかになり、抗原検査が実用化され、ワクチン、特に、mRNAワクチンが実用化され、それに伴って、病理学総論の中での免疫学と感染症がクローズアップされて来ているようだ。


第1章病理学で学ぶこと

【病因論】外因に関して、この医学書院の教科書では、第10章に再度取り上げている。

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第1章病理学で学ぶこと
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第2章細胞・組織の障害と修復、炎症

以下の病態の病変の細胞の変化を十分に理解する必要がある。

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第2章細胞・組織の障害と修復、炎症
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第3章 免疫、移植と再生医療

人体vs コロナウイルス NHK スペシャル 人体 特別編

 2兆の免疫細胞(免疫ネットワーク)のコロナウイルスとの攻防

 新型コロナウイルスは、飛沫に潜んで来る。気道の繊毛の掃除機能を、コロナウイルスはすり抜けて、肺胞細胞に感染する。ウイルス突起が肺胞細胞の受容体と結合すると、貪飲されて、感染することになる。コロナウイルスは、細胞内で増殖し、大量に放出されて、感染が拡大して行く。

 最初に、自然免疫系がはたらく。コロナウイルス感染が生じたら、感染肺胞細胞からの警報メセージ(インターフェロン)が放出され、発熱すると共に、食細胞が誘導されて来て、コロナウイルスを貪食して行く。しかし、コロナウイルスは、この自然免疫系をすり抜けて行く。コロナウイルスの特別な遺伝子の活性化で、警報メセージ(インタ-フェロン)の感染肺胞細胞からの放出を抑制するのだ。このコロナウイルスの遺伝子に変異がある亜型が見つかっている。そのウイルスの感染肺胞細胞ではインターフェロン分泌が1/20にまで低下して、発熱なし、症状なしの見せかけての無症状を示し、急速なコロナウイルス感染症の重症化が進行する。

 こう言った無症状のコロナウイルス感染者からの感染拡大には、感染者を含めて、マスク使用で抑制することが出来る。

 一般に、コロナウイルス感染症は、一定期間は無症状で、その後、風邪症状を呈し、肺炎の進行を見る。

 次に、獲得免疫の細胞性免疫が働きだす。コロナウイルスを貪食細胞が抗原提示細胞になり、ナイーブT細胞をキラーT細胞に変身させ、キラー細胞はコロナウイルス感染細胞に接して、細胞障害性毒素を感染細胞に注入し、感染細胞を死滅させる。  

 このコロナウイルス感染肺胞の中で、コロナウイルスは、感染細胞のウイルス感染の提示を抑制して、キラーT細胞の攻撃を回避してくる。

 次に、獲得免疫の液性免疫が発動して来る。コロナウイルスを貪食し処理したB細胞が抗体を作り始める。中和抗体がウイルスと結合し、抗体ごとウイルスが貪食される。この段階になると、コロナウイルス感染症は治癒に向かう。

 コロナウイルス感染症の死亡例の病理解剖で、肺の血管内に血栓形成が見られたそうだ。ドイツのエッペンドルフ大学で150例以上の病理解剖の殆どで肺血栓塞栓症が認められ、23割の人は肺血栓塞栓症で亡くなっていたのだ。

 血栓内には、貪食細胞の死骸が認められるそうだ。サイトカイン血症(ストーム)では、免疫細胞の自爆攻撃、即ち、好中球のDNAの網を放出してウイルスを捕捉するNETs (Neutrophilic extracellular traps)が見られる。通常の状態では、このNETsは観察されないが、サイトカインストームでは大量の好中球の自爆攻撃でDNAの網が血栓形成を進めるのだそうだ。

 免疫の暴走を抑える治療が期待されている。

 

 

NKH人体シリーズDVDシリーズの次のもの(NHKスペシャル 人体 ミクロの大冒険)では、山中先生のiPSの確立により、幹細胞から200余りの分化成熟した細胞を得る方法が確立されて来て、細胞の機能に注目されたものである。最初のシリーズ含まれていなかったホルモン・内分泌の内容が含まれていた。ヒトの老化では、自然免疫での貪食細胞の活性化の維持が重要な要因であり、iPS細胞技術で、特定の形質を認識するT細胞受容体をもったヘルパーT細胞を老人から採取し、そのiPSから復活させることが可能となり、これを再び老人に戻せば、その老人は自然免疫の活性化した状態をとりもどして、寿命が伸びる可能性が示唆されていた。この特定の形質を認識するヘルパーT細胞の幹細胞化(iPS)では、その受容体の確立の過程で遺伝子の一部が欠損することから、あのSTAP細胞の嘘を見抜かれた広大の難波先生の注目点が、その受容体を維持した形での分化誘導と大量再生が可能となることを示唆していたことは注目すべき点と思った。また、心筋の再生を、iPSから心筋細胞シートを作成して、心臓の傷害部位の外側に貼り付けることで血管新生を促す再生医療への応用が臨床に導入段階であるとの紹介もあった。

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第3章免疫、移植と再生医療
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第4章 感染症

【ウイルス大感染時代】MEGA CRISiS NHKスペシャル

  鳥インフルエンザウイルスに10数羽の養鶏場のニワトリが感染死すると、その養鶏場のニワトリは全て処分され、処分されたニワトリは100万羽にも及ぶことになる。

 この鳥インフルエンザは、豚に感染して頻繁に遺伝子変異をしていることが判明していることから、豚からヒトへ感染し、更に、ヒトーヒト感染出来る変異株が生じることが恐れられている。

 この種を越えたインフルエンザウイルスの感染は、種の体温が問題になる。鳥は42℃、豚は39℃、ヒトは37℃の体温であり、豚に、鳥インフルエンザウイルスが豚に感染して、増殖して変異株が生じているので、鳥と豚のインフルエンザウイルスが交雑して、39℃の豚の体内で増殖出来る株が出来ている。また、豚に鳥とヒトのインフルエンザウイルスが感染し交雑した株も発見されている。エジプトでは、4233℃の温度で増殖する鳥インフルエンザが見つかっている。

 次に、ヒトに感染できるかは、ウイルス突起とヒト細胞の受容体が適合するかに依存している。このインフルエンザウイルスの突起は、4つの遺伝子が関与し、これらの遺伝子の変異が、ヒトーヒト感染のパンデミックへの進展の鍵を握っていて、検索・研究が行われている。

 猛毒性鳥インフルエンザウイルス由来ヒトの新型インフルエンザウイルスのパンデミックを予測すると、東京で1人の患者発生すると、急速な感染拡大が生じ、病院でのベッド不足する。感染した新型インフルエンザウイルスは肺で100万倍に増殖して、全身に拡大して多臓器不全で患者は亡くなる。政府は、緊急事態宣言を出して、外出禁止令を出し、物流が停止する。新型インフルエンザのパンデミックにて、日本人の3分の1が感染し、致死率が2%60 万人が死亡する。ワクチンは、パンデミックに進展した新型インフルエンザウイルスを対象に作られるが、時間を要し、パンデミックの初期には間に合わない。従って、パンデミックの状況では、感染しないように、また、感染させないように、各自の行動が必要となる。マスク、ソーシャルディスタンス、不要不急外出の禁止等である。正に、新型コロナウイルス感染症のパンデミックで学んだことである。

 インフルエンザ以外のウイリスは、どう言った状況であろうか?熱帯での感染症である中東呼吸器症候群(MERS)(コロナウイルス感染症)、エボラ出血熱等が温暖化に伴い温帯でも発症が見られている。

 温暖化に伴い北極圏のシベリアの永久凍土が溶け出している。その例となるのが、モリウイルスであり、非常に増殖の強い未知ウイルスだ。

 また、温暖化に伴い、ウイルスの拡散も見られる。妊婦が感染すると小頭症の子が生まれるジカウイルスは、最初、アフリカのウガンダで確認されたが、媒介する蚊の熱帯シマカの生息域が拡大して、ブラジル、アメリカ、東南アジアに拡散した。温帯域のヒトスジシマカも媒介することから、温帯の日本にも拡散して来る可能性がある。蚊の媒介するものには、生殖能力を無くした雄の蚊をその生息域に撒くことで、蚊の個体数を減らすことが可能であるが、自然環境の予期できない変化が生じることあり得るから、その実施には充分な配慮が必要になる。

 また、国際空路の発達で、23日で世界中の何処にでも行けるようになり、潜伏期が長い感染症は輸入感染症となり、世界中に拡散する。先のSARS(亜急性呼吸器症候群、SARSコロナウイルス)がそうであったし、新型コロナウイルス感染症も同様である。

 今後は、動物、ペット等のウイルスの病原性を研究して、それらの関連ウイルスのヒトでのパンデミック時に、早急な対応ができるようにしようとする科学者もいる。

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第4章感染症総論
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第4章感染症各論
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第5章循環障害

【病の起源(病気の進化生物学) NHKスペシャル】心臓の病気

心臓は、1日に10万回拍動し、ドラム缶40本の血液を全身に送り出す高性能ポンプである。比較生物学では、爬虫類の心臓はスポンジ状筋肉の収縮で血液を絞り出す原始的な心臓であるが、ラットの心臓は原始的哺乳動物に近い心臓であるが、筋肉が厚く密であり、冠動脈等の血管が心筋細胞のそれぞれに血液を行き渡らせるように発達している。

 進化生物学では、ヒトの2足歩行の開始で、重力に抗して、血液を動かす必要があり、交感神経により血管を収縮させて下半身の血流を減らすが、それによる血管抵抗の増加は心臓への負担を増大させる。また、脳への血流を維持する必要から、心臓の負担が増大し、冠動脈の動脈硬化の進行で、心筋への血流が止まると心筋梗塞が生じ、心筋は壊死に陥り、心室壁が薄くなり動かなくなり心拍出量が低下する。

 動脈硬化は、ヒトでは、血中のコレステロールの上昇と共に進行する。ゴリラは血中コレステロール値が高いが、動脈硬化はなく、心筋梗塞がない。この違いには、ヒトではシアル酸の一つであるNグリコリルノイラミン酸(GC)が冠動脈内皮に蓄積し、炎症を引き起こし、コレステロールが内皮に入り易くなり、動脈硬化が進行することで説明されている。270万年前に、ヒトのGCの遺伝子が変異してGCは産生されなくなり、脳を発達させ、脳が巨大化した。飽食の時代に、ヒトは肉食で多量のGCを摂取して、その摂取したGCが動脈硬化を促進しているのである。

 

【病の起源(病気の進化生物学) NHKスペシャル】脳卒中

ヒトの脳の巨大化は、早過ぎた進化で、脳血管が追いつけない程の巨大化であった。そして、血流の数分の停止で、脳機能を停止する。

 脳卒中は、脳血管の破綻による脳出血と、脳血管の血栓症や他の場所の血管や心臓で出来た血栓の塞栓症により生じる脳梗塞がある。

 脳血管の破綻には、脳血管の微小動脈瘤が関与している、ヒトの脳血管は壁が薄い。その理由は、哺乳類では、体の血管の壁が厚くなり、筋肉運動を支えたが、脳には筋肉がなく、脳血管は薄いままであった。脳への血流が増加すると、分枝した血管壁の薄い脳血管に微小動脈瘤が形成される。この微小動脈瘤の破綻が脳出血を生じ、また、微小動脈瘤での血流の淀みから内皮障害が起こり血栓が出来て血栓症が生じ、脳梗塞を生じる

 脳の巨大化しなかったチンパンジーでは、脳卒中は無い。200万年前からのヒトの脳の巨大化で、毛細血管が劇的に増加し、幹の血管の血流の増大で圧力が高まり、薄い壁の分枝した動脈に微小動脈瘤が出来た。微小動脈瘤が出来易い場所があり、レンズ核線条体動脈であり、近傍に錐体路、手足を動かす神経路がある。250万年前から、手の器用さが進み、石器も進化し、手を動かす運動神経野の拡大に血管の発達が着いて行けなかった。

 アフリカのピグミーの人達には脳卒中は見られない。また、ピグミーの高齢者には高血圧がない。 6万年のヒトの出アフリカで、塩と出会った。塩分摂取で水分が血管内に導かれ、高血圧となる。高血圧により脳血管に微小動脈瘤が出来るようになった。必要以上の塩分摂取が問題となるが、アフリカでは、塩分が少ないことから、ピグミーの人達には、高血圧もなく、脳卒中もないのだ。出アフリカで、塩分の多い地方に出たヒトでは、塩分摂取欲望が増大する。塩分摂取欲望は、麻薬と同様のタンパク質の増加が見られる。また、出アフリカ後の文化の発達、つまり、肉食の飽食の時代には、頸動脈での脳梗塞の原因となると閉塞が増え、これはコレステロールの蓄積による動脈硬化の進行によるものである。

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第5章循環障害
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第6章代謝障害

代謝障害の多くは、生化学・分子生物学の領域で取り扱われている。一般に、正常状態を理解する基礎医学の科目である生化学・分子生物学では、分子の代謝は、代謝過程の変化で何が生じるかの研究から病態と正常での代謝が解明されてきた歴史がある。また、酵素等の遺伝子の変異は、その機能障害の程度によっては、病態が顕在化するのが成人となった後である場合には、その病気(代謝障害)が生活習慣病として発症することから、遺伝子の変異とその産物の機能障害の側面から代謝障害は理解する必要がある。

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第6章代謝障害
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第7章老化と死

【老化、老化症候群、廃用症候群】

一般的に、老化と言う場合には、生理的に加齢現象と呼ばれる変化と生活習慣病の病態が含まれている。老化症候群は、言葉としてはあるが、具体的に定義されていない。従って、生活習慣病の病態は、それぞれの疾患の発生病理とその終末象(終末期、Endo-stage)を理解する方が、より理解が深まるようだ。廃用症候群は、それぞれの病気の悪化した病態とその時期に動かせなかった機能や筋肉等の臓器の廃用萎縮で考える必要がある。

 

【尊厳死、安楽死、所謂人生会議/家族会議、緩和医療】

 

日本では、基本的に安楽死は認められておらず、尊厳死や人生会議/家族会議の結論であっても、また、医療の現場での余命を短縮する医療であっても、安楽死の範疇に入るものは選択することが出来ない。それ解決するには、ただ単なる鎮痛ではなく、精神的な痛みをも緩和する対応を熟慮して、対峙して行く必要があるとされているようだ。

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第7章老化と死
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第8章先天異常と遺伝性疾患

【人体III 1、生命の暗号を完読せよ】

以下の2つの遺伝子変異が紹介されている。

1)創薬につながる遺伝子変異

 イタリアの第二次世界大戦でトンネルが作られるまでは、陸の孤島であったリモネ村の38人のみが有する動脈硬化を防ぐリポ蛋白の遺伝子変異が見られる。村人同士の婚姻がほとんどではあったリモネ村の教会の誕生、洗礼、婚姻、葬送の書を解析して、300年前の一人の男性に生じた遺伝子変異からの系譜に見られることが明らかになった。現在のリモネ村でのこの遺伝子変異を運ぶポルタトーリの男性とのカップルに誕生した男子にもこの遺伝子変異は引き継がれている。この変異したリポ蛋白は、二量体を形成し、より多くののコレステロールを運ぶ能力を獲得して、動脈硬化を予防する。正に、このリポ蛋白は抗動脈硬化剤であった。遺伝子変異の創薬への可能性を示す実例であった。

2)奇形の原因となる遺伝子異常

 奇形の多くは、胎児期の問題かと理解していたが、遺伝子変異でも生じるようだ。エドワード ルイス博士のショウジョウバエの奇形が8つのマスターキー遺伝子であるホメオチック遺伝子異常を示唆した研究は1995年のノーベル賞に輝いている。マスターキー遺伝子の産物蛋白は数千の遺伝子を活性化し、臓器や器官を作るそうだ。マックギニー博士は、ヒトやネズミにも、このホメオチック遺伝子があることを見出した。ヒトでは13組のa-d4つの遺伝子の組み合わせで、人体が作られているそうだ。家族性に見られる指が短く曲がった奇形は、A13D13の遺伝子が働き、骨が長くなるそうだが、D13 遺伝子変異で骨が短くなったのが原因であることが明らかにされている。

【その後のDNA研究の展開】

3)トレジャー遺伝子・遺伝子スイッチ(DNAメチル化、エピゲネチック制御)

 

遺伝子研究の最近の話題を扱った放送(NHKスペシャル 人体II 遺伝子 第2集 DNAスイッチが運命を変える、まだ、製品版のDVDを入手していないので、放浪録画記録DVDを用いた)では、所謂タンパク質をコードするエクソン領域に対して、意味を持たないイントロン領域は遺伝子全体の98%を占めるが、そのイントロンに遺伝子の発現調節のエンハンサーが含まれており、遺伝子モンタージュでは、顔も沢山のエンハンサーにより顔を形作る遺伝子を調整していた。また、所謂、エピゲネリックと云われる遺伝子の制御がエンハンサー部の遺伝子のメチル化によるヘテロクロマチン化で機能しなくなる(スイッチオフ)ことが、遺伝子の発現に関与していることも明らかになって来ている。

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第8章 先天異常と遺伝子異常
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第9章腫瘍

【人体 III 2 つきとめよガン発生の謎 病気の設計図】

がんとともに生きた人生、骨肉腫等の4度のがんに罹患した人がいる。P53遺伝子の変異で、関連蛋白を生じない為にがんの発生を食い止めることが出来なかったのである。

 がんは細胞分裂が止まらなくなる。その原因となる遺伝子の変異は生後にも生じる。

 Ras遺伝子は最初に明らかにされたがん遺伝子であり、増殖を促す。Ras蛋白は、細胞膜の増殖受容体のシグナルを受けて、増殖シグナル分子を核に送る。Ras遺伝子に変異が生じると、Ras蛋白は増殖シグナルが出し続ける。

 一方、P53遺伝子は、50%のがんの発生に関与し、その時に変異が生じている。P53蛋白は、4分子が結合して働き、DNAの特定の領域に結合すると、関連蛋白が生じて、Rasシグナルを抑制する。P53遺伝子に変異が生じると、関連蛋白が生じずに、Ras蛋白の増殖シグナルを抑制出来なくなる。

 

 遺伝子も変異が修復されないと、がんが生じることになる。紫外線は遺伝子変異を生じるが、最初に、色素細胞を刺激して、色素が増えて、皮膚の色素細胞が紫外線を遮る。それでも紫外線が皮膚深部に届くと、皮膚深部の細胞にP53蛋白が生じてくる。P53蛋白が増殖を抑制し、遺伝子の修復が行われる。修復遺伝子の障害による色素性乾皮症(XP)では、皮膚癌が発生する。XPの子供たちは、紫外線の少ない夜間に集会し、楽しんでいるが、その親たちは、XPでの耳の障害や体が動かなくなることを危惧している。

 

また、P53の他の機能として、遺伝子変異が大きすぎるとアポトーシスを生じさせて、その細胞を死滅させて、大きすぎる遺伝子変異を解消する。

 

 遺伝子の変異の腫瘍発生の側面を見てきたが、遺伝子変異の利点もある。欧米人の10%ケモカイン遺伝子の変異が見つかる。AIDSウイルスは、マクロファージ表面のケモカイン受容体の変異で、ウイルスが感染出来ずに、AIDSにこの人達は感染しないのだ。700年前のヨーロッパでのペストの流行で、生き延びたヒトに、この変異が生じたと考えられている。因みに、ペスト菌もケモカイン受容体を経て細胞に感染する。AIDS ウイルスに感染しても発病しない遺伝子変異もあるのだ。

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第9章腫瘍
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第10章生活習慣と環境因子による生体の障害

病気の外因では、従来発癌物質と教えて来たダイオキシンは、イタリアでの工場事故で周辺地域に大量汚染を引き起こしたのだが、その後の調査で発癌率等の上昇は観察されなかったそうで、20年前かダイオキシンの環境汚染源として市町村の低温小型ゴミ焼却炉をやり玉にされて、廃止されて、大型高温ゴミ焼却炉が普及したが、結局、エビデンスをもってダイオキシンの急性の環境汚染ないし暴露はヒト癌の発症には寄与していないことが判明したようだ。慢性的な暴露がヒト癌の発症に寄与しているかの問題は、がん登録制度が開始されたので、今後、衛生学の分野で研究されて来ると思われる。

 また、ダイオキシンの発生を抑制した大型ごみ焼却炉は、大きな熱源であり、これから発電をすれば、既に実用化されているごみ焼却炉発電所となり、再生エネルギーの利用で、大きな電力供給原となると思われ、また、火山大国日本での地熱発電プラント開発と同時に進められるべきものであるようだ。

 

また、福島原発事故による放射能汚染の問題は、自然放射能の高い地域やラドン温泉地等でも発癌率は他の地域と比較すると低いそうで、放射性ヨード等の甲状腺蓄積(内部被曝)による遅発性放射線被曝関連癌の発生が検索されている現状であるが、放射線低レベル被曝と発癌や健康障害の問題は今後の定率的影響の修復遺伝子障害、がんプロモーション、がんプログレション因子の障害の研究が必要である様だ。

 

最近、キラーストレスというものが認識されて来ている。ストレス自体は外因であるが、その背景に、内因の免疫能の低下があるようだ。歯周病菌は弱毒菌であり、歯科では歯周病の予防・治療面から対策されていたものであるが、血流内に侵入しても敗血症症状を示さずに、動脈硬化病変(粥腫:アテローム)に定着して、ストレスにより小出血が生じると、赤血球に含まれる鉄を栄養源として爆発的増殖し、血管壁を破壊し、致命的な脳出血や虚血性心疾患を生じるのだそうだ。また、ストレスも持続で、癌免疫のサーベイランス(自然免疫)の低下は、発癌を促進しているそうだ。

 

 

アスベストと中皮腫の問題は、アスベスト工場での職業病として注目された。その病因としてはアスベストに含まれる鉄であり、鉄の錯体は強い活性酸素を生じて、遺伝子変異を生じることが示唆されている。このアスベストは、タバコ以上に肺がんとの関係が強かったそうであるが、社会的にはタバコ悪玉の世論が優勢となってしまった。昨今、タバコ関連の扁平上皮癌の減少が見られる一方で、肺癌は増加し続けている。近年、次世代シーケンサーの普及で、肺癌のモーター癌遺伝子を同定して、そのモーター癌遺伝子の癌に有効な薬剤の選択治療を行う治療(ドラッグデイスポジション)が行われてくる様になって来ているので、今後は点突然変異の頻度等からアスベスト関連肺癌の診断方法が確立されてくる可能性がある様だ。また、アスベストに含まれる鉄分子による酸化反応(フェントン反応)は、遺伝子変異を生じることから、放射線障害やの二次電子や内的反応性酸化種:ROS)と同様の遺伝子変異であり、注目すべきものであるようだ。

 

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第10章生活習慣と環境因子による生体障害
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2023年度 レポート試験問題

2023年度 病理学レポート試験    

1) 新型コロナウイルス感染症について、以下の設問に答えなさい。

a) 感染経路を説明しなさい。(5)

【解答例】多くは、飛沫感染飛沫核(空気)(エアゾル)感染、稀に経口感染もある。

 

b) どんな病気が生じるか、説明しなさい。(5)

【解答例】上気道に感染し、上鼻道の嗅細胞に感染し、嗅覚障害を生じる。咽頭炎や気管支炎を生じる。感染が肺胞に及ぶと、肺胞障害・成人型呼吸促迫症候群を生じ、エクモ等の人工心肺装置での加療を要する。ワクチン接種後には、細気管支炎も生じる。更に、浸潤性血管炎を生じて、肺静脈血栓症心筋炎を生じる。また、自然免疫系の暴走による好中球の核酸の網の放出による好中球細胞外トラップ(NETs)が血中で生じて血栓形成を認める。

 

c) 感染の予防について、説明しなさい。(5)

 【解答例】現在、感染経路に対して、マスク使用、居室の換気周辺家具等の表面清掃が行われるとともに、ウイルスの感染の受容体に接続するのを阻害するmRNAワクチンが実施されている。

 

 

2) エコノミー(クラス)症候群について、以下の設問の答えなさい。

a) どんな時に、発症しますか?(5)

【解答例】オリジナルは、海外旅行で長時間のフライトで、エコノミークラスの狭い座席に長時間座っていると、下肢の静脈に血栓が出来て、動き出した時に、その血栓が静脈壁から剥離して、肺(動脈)梗塞を生じる。

 

 ストレスがかかると、副腎髄質からのストレスホルモン(アドレナリン)分泌は、血流を低下させて、凝固しやすくなる。この状態は、上記の長時間の狭いエコノミークラスの座席に座って生じるが、災害等のストレス下での車中泊等でも生じることが知られ、災害関連(ストレス関連)死のひとつに挙げられている。

 

b) どのような病気が生じますか?(10)

 【解答例】下肢深部静脈血栓症、その血栓の剥離による(動脈)梗塞が生じ、肺の血管の二重支配から、肺梗塞で壊死に陥った血管から気管支動脈からの血液の流入で肺出血が起きる。

 

 

3) 黄疸について、以下の設問に答えなさい。

a)発病の機序の違いで、どのように分類されるかを説明しなさい。(5)

【解答例】肝前性(溶血性)黄疸、肝(細胞)性黄疸、肝後性(閉塞性)黄疸

 

b) 分類されたそれぞれについて、説明しなさい。(15)

 【解答例】肝前性黄疸では、大量の老化赤血球が脾臓とうで処理されるか、末梢血管内で溶血を起こして生じる。結果として、間接型ビリルビンの増加が見られて、溶血ではヘモグロビン尿が見られる。

(細胞)性黄疸では、ビリルビンの代謝(グルクロン酸抱合)を行う肝細胞の炎症(肝炎))等で、間接型・直接型のビリルビンが増加する。

肝後性(閉塞性)黄疸では、肝細胞でグルクロン酸抱合された直接ビリルビンが十二指腸の分泌されるまで過程で停滞すると、血中に直接ビリルビンが増加する。特に、胆石の嵌頓や膵頭部腫瘍では進行性の黄疸となる。

 

4) 腫瘍のTNM分類と病期(ステージ分類)について説明しなさい。(15)

 【解答例】腫瘍のTNM分類は、各臓器の腫瘍の進行の程度(病期、ステージ)の決め方を国際的に統一するために、UICC(国際対がん連合)が中心になって作成した進行がんの分類法である。Tは腫瘍の大きさと浸潤の深さでT1からT4に区分されている。Nはリンパ節転移の原発部位から離れの程度をN0からN3に分類し、N0はリンパ節転移がないことを示す。Mは遠隔転移の有無を表して、M0は遠隔転移なし、M1は遠隔転移ありを示す。

 病期は、臓器ごとに決められ、病期 Iから病期IV4段階に区分され、病期 Iは、腫瘍の浸潤は限局し、転移がなく、予後が良い。病期IVでは、遠隔転移を認め、予後が悪い。

 

5) 腫瘍の多段階発がんの機序(仮説)と2段階仮説について説明しなさい。(15)

 【解答例】発がんには、イニシエーション、プロモーション、プログレッションの過程がある。イニシエーションんl段階で、イニシエーターが遺伝子に変異も生じさせ、プロモーターがその遺伝子の変異から細胞増殖を不可逆的に生じさせて、自律性増殖が確立される。更に、プログレッションで、がんは成長し、周囲に浸潤し、転移していく。これらの過程には、複数のがん抑制遺伝子や増殖遺伝子の変異等が含まれ、多段階発がん仮説と呼ばれている。

 これに対して、古くから、発がんには、イニシエーションとプロモーションの2段階を要すると考えられてきている他に、網膜芽細胞腫のように、出生後間も無く発病のする腫瘍では、遺伝位の変異等が後1段階の変化で発がんする前段階まで生じているとする2段階発がん仮説の考えがある。

 

6) 放射線の人体への影響について、以下の設問に答えなさい。

a) 確定的影響と確率的影響を説明しなさい。(15)

【解答例】放射線の人体への影響は、その影響の発生機序により、確定的影響確率的影響の分類されている。

確定的影響では、一定量(しきい線量)以上の被曝がないと発生しない。しきい線量以下の被曝を細胞レベルで考えると、細胞障害が酷いと細胞死を生じるも、多くの細胞は回復し、組織や臓器レベルでの機能喪失は見られないが、しきい線量以上の被曝では、多くの細胞が細胞障害で細胞死に陥り、組織や臓器レベルでの機能喪失が生じる。

 

一方、定率的影響は、しきい線量が無く、被曝量に対応して影響が生じる可能性が高くなるが、症状が重くなるわけではなく、遺伝子の変異が生じることで、遺伝的影響と発がんに影響する。

 

b) 自然放射線能の高い地域では、ヒトの悪性腫瘍の発生が低いことが示唆されています。

この現象を、上記のa)の確定的と確率的影響から説明を試みて下さい。(5)

(まだ、定説はない問題ですので、発想たくましく説明しなさい)

 【解答例】自然放射能の高い地域では、ある程度の確定的影響はあるものの、組織や臓器レベルの機能消失は無く、しきい線量以下の被曝であることが示唆される。同時に、定率的影響も受けているはずであるが、その遺伝子変異等を生じた細胞は、確定的影響での細胞死や修復を受けることから、発がんの遺伝子変異を生じた細胞の少数は細胞死に陥り、多くは修復されて、その遺伝子変異も修復されると考えられる。したがって、自然放射能の高い地域の人々では、しきい線量以下での定量的影響から遺伝子修復のレベルが上がった状態にあることが示唆され、ヒトの悪性腫瘍の発症が少なくなっていると考えられた。

 

 



 

【DVD情報】

【病の起源】このシリーズは、結局DVD化は見送られた様であるが、録画しDVDに焼いたものを講義に使っている。

 

  このシリーズは、比較生物学的な構成と挿入されたストリーは面白いのだが、時に、二足歩行故にと説明されると何か運命的に疾患になる様な印象が残り、違和感を持つこともある。

 

 病の起源(癌、脳卒中、うつ病、心臓)

 

 

 

【細胞の世界】山中先生の総合司会で、DVD2枚となったシリーズでは、所謂副腎性器症候群が多発している地域が紹介され、一次性徴で本来の男性ホルモン分泌となり、それまで男の子であったものが女性となったり、女の子であったものが急の男性になった。この背景には、副腎由来の男性ホルモンの代謝異常があるように思える。

 

 

人体 ミラクル大冒険

 

   細胞のスーパーパワー

 

   細胞が出す魔法の薬

 

   老いと戦う細胞

 

 

 

人体 神秘の巨大ネットワーク

 

    腎臓が寿命を決める

 

    脂肪と筋肉が命を守る

 

    骨 若返り物質

 

    腸 免疫のカギ

 

    脳 ひらめきと記憶の正体

 

 

 

【人体解剖マニュアル】ルネッサンスに解剖学やその後の生理学の進歩に伴い、ヨーロッパでは、人体解剖がシアターと呼ばれる講義室で公開で行われる様になった。

 

  このDVDの解剖は、病理学解剖を含めて、また、日本では通常行われない、生理学的側面の簡単な実験や、凍結して大型ソーによるCTカット等を、やや多数の見学者の前で、解剖が行われ、解剖体の病気等を解説・説明している。

 

 特に、上肢の動脈を人工血液を還流させながら、指先から上腕までの小径の動脈から上腕の大きな動脈まで、その切傷での出血量を可視化して示して、生命に危険な切傷を理解させて、更に、日赤の看護師による大口径の動脈の出血の対処法を見学者に教育を行なっている点は、一般人への医学教育として充分に考慮されている様だ。

 

 また、日本では法医学的なものと考えるサバイバルナイフによる体幹への刺傷の致死性の解説は、少し大掛かりであるが、凍結された躯幹のCTカットでの障害ないし刺し傷の到達臓器の解説は非常に理解し易い。一般での購入は現在行われていない様だが、解剖学、生理学、病理学そして法医学と云った解剖の学生や関係者の教育には、有用な面もあると思って、講義に活用している。 特に、放射線技師になる学生には、イメージの人体と対応を理解するのには有用である。

 

 

 

人体解剖マニュアル

 

解剖 l :動き、ll 循環器、lll 消化、lV 生殖

 

解剖2 l 血液、ll 腫瘍・ガン、lll 毒素、lV 老化

 

ギュンター ER l 致命傷、ll 出血死、lll 事故死